『A Day In The Life』

まだ起き切ってない体で、ダルダルとする朝の支度。
トーストと目玉焼き。牛乳は、おなかギュるってなるから飲まない。
自分だと、上手くいかない半熟の目玉焼き、ゆきこ(母)は毎回完璧。グラッツェ、マイマザー。
歯磨き、洗顔。メイクは軽めでいいかな。ちなみにテレビは、8チャンネルで。
出勤まで、前半少しだけ見れる特ダネ。毎朝見続けたら、いつか小倉さんのズラが取れるシーンが見れるかなと思いつつ、今日もいつもどおり。
特ダネのない特ダネでした、と。

「あんた、そろそろ出ないと遅刻するんじゃないのー?!」
ゆきこの声に押し出され、朝の日差しと小鳥のさえずりの祝福を受ける。
あら、わたしったら文学少女みたいな表現。
なんてこと言っちゃって、いや~、今日も快晴ですな。だり~ですな~。

駅までは、自転車でビューんと。風がつめたいっての。
朝の散歩をするタバコ屋のおばばと飼い犬のダニエルを追い越して。
でっかいバックの野球少年も追い越しちゃう。
信号待ちで停まってたら、野球少年に抜かし返されたけど、まぁどうでもいいかとは思う。
そんなとこ、あたしは大人になった。・・・のか?
ちなみ駅までの彼との競争、生涯成績、23勝683敗で野球少年。やっぱ悔し。若さには叶わん。

朝の駅、ホームにいるみんなからは覇気が感じられませんな。
本当にみんなこれから働きにいくのかよ。行く前から疲れすぎじゃないかな?
そんなこと言うあたしも死んでますが・・・。
絶対、椅子確保して会社まで寝るんだ。今日は、そう決めたんだ。今日は残業確立99%だもん。
つーか、んな残業ばっかしてたら、彼氏できるもんもできねぇよ!
あたしの寿退社計画は、いつ達成できんだ?!会社つぶれろ。
という気持ちはありつつも、黙々と下流の貧民は働かなきゃいけないのよ。
働かなきゃ生きていけないもの。
白馬の王子様が来てくれれば良いのにな。お金たっぷり持ってさ。
でも、現実、白馬の王子様なんていないし。
つーか、白馬の王子様ってなによ。腐女子じゃあるまいし。
馬は乗ってなくいいや。お金だな。むしろ、お金にまたがってればいいのに。
あ、やっぱ、それ無し。そんな人サムイわ。
お金じゃない、愛だろ。純愛でっす。愛があれば、あたし今の会社でがんばるよ!
愛があれば、なんでもできる。だから、愛をください。
って、誰の?白馬の王子様?金にまたがった馬鹿な王子様?
え、また金になってる?だってぇー、お金ほしいもんー。仕事したくないもんー。
といいますか、仕事って何なの。なんで働かなきゃいけないのよ。
働かなきゃ生活できないからだって。
じゃあさ、今の生活って、そんな価値あんの?守る価値あんの?

毎晩、コンビニ弁当食べるため?
ツタヤでDVD借りるため?
月9のドラマ見るため?
いつか来る王子様のため?(来ねーけど)
それ以外、いまのあたしの生活になにがある?

うん?
・・・あれ?なんでそんなに頑張ってるの、あたし。

ふと、なんか。
そうだ。

駅のホームから、ちょっと降りてみる。
ぴょんという感じ。
茶色に錆びた線路につまづいた。
ストッキングが破れて、ヒザ小僧から血が出た。
おぉ、かわいそうにあたしのヒザ小僧よ。

ガタガタゴーん。
うなる電車がやってくる。

ホームの人々が騒ぎ始める。さっきまで、覇気なかったのに元気だこと。
「人が飛び降りたわよー。だれかー。だれかー。」いったい誰を呼んでるの、おばさん。
「スイッチを押せー。スイッチはどこだー。」いや、あんたの目の前にあるよ。

 

ん~、あたしは、自殺しちゃってる?
なんで?
青空が綺麗だったから?
まさか。

たぶんズレちゃっただけかな。
気分が。
ココロが。

ちょっとズレちゃっただけ。
今日の一日が。
今日からの一生が。

わたしの今までが、少しでもズレていれば。
あのセリフ、あの決断、今までの選択肢のなかで1つでも違うのを選んでいたなら。
少しは幸せな日々、おくれていたのかな。(今がそんなに不幸だったわけじゃないけれど。)
そうしたら、今日という日はズレなかったのかもね。

あ、電車きた。
ゆっくりと。わたしだけが感じることのできるスローモーションで。
最後に見たのは、運転手さんのびっくりした顔。梅図かずおの漫画ばりな顔だわー。

くらっしゅ。

<終>

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