『A Day In The Other Life(リフレイン)』

今日も眠れなかった。

めっさだるいんですけど、会社へは行かなきゃね。
パンとコーヒーとスクランブルエッグの朝ご飯。毎朝、思う。なぜ、ゆきこ(母)が作るスクランブルエッグはこんなにも不味いの?そんな難しい料理じゃないよね。
テレビでは、特ダネがやっている。別に毎回意識して見ている訳じゃないけど、なんとなくつけている。特ダネのオープニングは、ちまたで話題だから見ておかなきゃ。小倉さんが挨拶とともにズラを落とす、毎度お馴染みのオープニング。うーん、至芸の極み。お約束の一発芸は、もはやベテランの風格。…あれ?小倉さんて、お笑い芸人だっけ。

ふと気づくと、時計の針は出発時間。スクランブルエッグだけ作って、ゆきこはさっさと寝てしまったらしく、誰もいなーいお部屋に向かって、「いってきます。」

駅までは歩く。なんとなく健康にいいかもしれないから。
途中、たばこ屋のおばばが乗った原付に追い抜かれる。飼い犬のダニエルも一緒。とゆうか、原付で犬の散歩ってどーなの?
しばらくすると、茶髪のガキの乗ったチャリンコにもビュンと追い抜かれる。そんな元気なら、スポーツでもやればいいのにね。ふとムキになって、走って追い抜かしてやろうかとも思う。やんないけど。
だって、あぶない人じゃん、そんなの。そもそも体力が続かない。この体力のなさで、大人になったんだなーと感じる。それって、なんか寂しいね。
というか、寝不足のお体は、すでにいっぱいいっぱいらしい。普通に歩いてるだけですが。

いやー、そもそも、なんで駅まで歩いてんだろ。チャリンコなら15分だったのにな。

失敗した。
失敗だな。

また失敗かよぅ。

なにかをする度に、間違った気がする。
なにかをする度に、人生ズレちゃった気がする。
正解は違かったんじゃないかなと思いつつ、過ぎ去った過ちは取り返しがつくわけもなく、あたしの未来が、ただ、ズレていく。いつから、どこから、なにが、ズレてしまったのだろう。なんて考えても、答えはでない。正確には、たくさんありすぎて1つに答えを絞れない。

これからも、道を間違えちゃうんだろうな。どこまでも、迷っていく。曲がるのは左じゃない、右だったの。たぶん。本当だったらこんな場所にいるはずじゃなかったんじゃないのかな。

頭の中で、悲観的な思考がスパイラルして深まっていく。

あたしの欠点。この後悔病。
あ、ふと思い出した。
「君はどこへ行っても幸せになれないよ。」最近言われた、彼からの言葉。そんなこと言うなんてヒドくない。それでも、彼氏なの?と思いつつ、でも、確かに真相をついている気がして、なんか、鬱。

いっそのこと、死んでやろうかしらって思ったり。

うん、それは違うかな。よくわからない。
でも。でも、それって、最後だけは、自分の最後くらいは、ズレないで。自分の決めたときに。自分のやりたいように。今まで選べなかった正解を選べるってこと?自分が歩もうとした道をちゃんと歩めるってこと?

 

「ふう。」

ため息ひとつ。普段座らない駅のベンチに座ってみる。

あ、今日って、すごい青空だったんだね。

どこかパラレルな世界に、過去の選択肢で違う道を選んだ幸せなあたしがいるとしたら、この青空なんかで感動できちゃったりなんかして、そんなことで生きててよかったなんて思えたりするんだろうな。

いまのあたしには、この青すぎる空は素敵すぎて、綺麗すぎて、それはまるでちっぽけなあたしが失った大きすぎる幸せな未来のようで、気を抜けば押しつぶされそうになる。いますぐにでも。

 

ちょうど駅に滑り込むように入ってきたオレンジの電車には、しかめっつらをした大人たちがこれでもかと詰め込まれていた。
あたしは、ふとあらわれたその光景を直視したくなくて、用もないのに折りたたまれた携帯の画面を開く。

チャラランと、軽薄な電子音が流れた。

<おわり>

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