『肉まん大王』

あるところに肉まん大王と名乗るものがおったそうな。

名前の由来はそのまま、村にふらりと現れては肉まんを村人たちに馳走してまわる事からそのように呼ばれていた。当時、その地方には肉まんなんぞ貴族の食べ物であったから、それはそれは村人にたいそう喜ばれたそうな。

 

あるとき、村は特大の飢餓に襲われた。
草木であれば何でも食べた。動くものであれば何でも口に入れてみた。
しかし、変わらず肉まん大王はあらわれ、村人たちに肉まんを馳走した。

ある時、ひとりの若者が言う。
「肉まん大王は、かよう飢饉のときにあれど、肉まんを大量にこさえていると聞く。これいかに!」
他の若者も口を開く。
「そうだそうだ。そもそもの話、肉まんが我ら庶民の食卓に届かぬは、肉まん大王の買い占めのためではあるまいか?」
「かような大飢饉であるにも関わらず、我々に肉まんを振舞うほどの貯蔵じゃ。我々は少量の肉まんを餌に騙されているということか。」
ざわめく群集。血の気の多いものどもは、早くも納屋から鎌やら鍬やらを持ち出し雄叫びを上げ始めている。
「一揆じゃ。焼き討ちじゃ。敵は肉まん大王の御所ぞ。」

 

肉まん大王の家は、またたく内に暴徒たちの火に包まれた。
焦げた肉まんの匂いは、村人達の嗅いだことのない匂いだった。

肉まん大王の寝所に殺到する鍬と鎌を握る手。
襖の桟を挟み、状況が掴めない仏のような顔と、気持ちが詰まった鬼の顔が対峙する。
鬼から小刀が放られる。
「情けじゃ。腹を切れい。」

横一線、そして縦。
裂かれた腹から飛び出るは、赤い鮮血。

 

のはずであった。
村人の眼に映る現実は、腹から吹き出す肉まんの飛沫(しぶき)

ざわめく民衆の中から、ひとり村医者が割り入る。
臓腑を探る。
そこには一対のなんと奇妙なからくり仕掛け。
鼻風船のように肉まんが次から次へと産まれゆくそのからくりは、主の死後も寸刻ほど動いていたがやがて動きを止めた。

村人は知ることになる。
すべての肉まんはドコから産まれていたのかを。


<終わり>

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